ギルバート教授は自ら設計したワクチンについて何度かインタビューに答えています。
――ChAdOx1(チンパンジーのCh、アデノウイルスのAd、オックスフォード大学のOxを組み合わせたプラットフォームの1型という意味)ワクチン技術とは何ですか
ギルバート教授「ChAdOx1は軽度の上気道感染症を引き起こすコロナとは別のウイルスであるアデノウイルスがベースになっています。アデノウイルスの遺伝子の一部を除去してワクチンとして使用した時にアデノウイルスが人間の体内で広がらないようにしました。それは免疫システムが弱い人々にさえ非常に安全です」
「しかし、まだ生きているウイルスであるため、ワクチン接種後に強い免疫反応を誘発するのに優れています。人間に感染するアデノウイルスの株はたくさんあります。つまり多くの人がそれらのアデノウイルスに対する抗体を持っています。この抗体のためワクチンベクター(運び屋)としてヒトアデノウイルスを使用することはできません」
「私たちはチンパンジーから分離され、ヒト集団では広がらないアデノウイルスを使っているので、それに対する事前の免疫はありませんでした。次にワクチン接種したい病原体のタンパク質の1つをコードする遺伝子を追加します。新型コロナウイルスではウイルスの表面を覆うスパイク(突起部)タンパク質を使用します」
――これまでにChAdOx1ワクチン技術をどのように使用していますか
「私たちはすでにChAdOx1ワクチン技術を使用してインフルエンザ、チクングニア熱、ジカ熱、別のコロナウイルスであるMERSを含む多くの病原体に対するワクチン候補を製造しています」
「MERSワクチンは第1相試験を完了しました。それは安全で強い免疫反応を誘発しました。ワクチン接種後にMERSウイルスに曝露されたヒトではない霊長類でテストされ、ワクチンは防御的な結果を示しました」
――ChAdOx1 nCOV-19(新型コロナウイルス)ワクチンの研究・開発はどのように始まったのでしょう
「私たちはChAdOx1でパンデミックへの備えに取り組み始めていました。新たなアウトブレイクが起きた時にできるだけ早く行動できるように準備を整えていました。しかしこの作業を行うための資金を集めることができず、作業はそれほど進んでいませんでした」
「今年に入ってすぐ中国でSARS(重症急性呼吸器症候群)のような肺炎が発生したという報告がありました。私は興味を持って報告をフォローし始め、状況が進むにつれ、研究チームのメンバーや、前臨床ワクチンの有効性研究で協力してくれた国立衛生研究所の共同研究者とワクチン製造について話し合いました」
「新型コロナウイルスの塩基配列がリリースされるとすぐに私たちが利用できる少額の柔軟な資金を使って、MERSに用いたアプローチに基づきワクチンの製造を開始しました」(以上は5月13日に各国の国連大使との間で行われた非公式なディスカッションより)
――そもそもウイルスベクターワクチンとは何ですか
「ほとんどの人は病気を引き起こすウイルスを弱毒化して使用して、その病気に対するワクチンを作る弱毒性ウイルスワクチンのことをよく知っているでしょう。例えば、はしか、おたふく風邪、風疹のワクチンは3つの弱毒性ワクチンを混ぜ合わせて3つの病気に対するワクチンをつくります」
「私たちはさまざまなウイルスを採取して、それらを人に対して安全に使用できるよう研究してきました。病原体の一部を追加するとその病原体に対する新しいワクチンをつくることができます」
「例えば通常は風邪をひくウイルスに、マラリア原虫の一部を追加するとマラリアに対するワクチンをつくることができます。天然痘に対して使用するワクチンの安全なバージョンを取り、インフルエンザウイルスの一部を追加して新しいインフルエンザワクチンをつくることもできます」
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――なぜウイルスベクターワクチンを使用する必要があるのですか
「ウイルスベクターワクチンが得意なのは予防接種をした人にT細胞応答を誘発することです。ワクチンの多くはタンパク質ワクチンとアジュバント(抗原性を補強する)ワクチンであり、ワクチンに使用されるタンパク質に対する抗体を誘発するのに優れており、一部感染症を防ぐのに役立ちます」
「しかし他の感染症については免疫系の他の主要な部分に働きかける必要があります。それがT細胞応答です。ウイルスベクターワクチンはそれを行うのに非常に優れており、マラリアや、いくつかのウイルス性疾患など特定の病気にはそれが必要です。がんワクチンにも役立ちます。ウイルスベクターワクチンは抗体も誘発するため、抗体とT細胞応答の両方を同時に得ることができます」
――ウイルスベクターワクチンの研究はどこまで進んでいますか
「ジェンナー研究所では過去数年間に、主にマラリアだけでなく、結核、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)、インフルエンザ、C型肝炎に対するさまざまな疾患に対するウイルスベクターワクチンの約50の異なる臨床試験を行ってきました。人々に対してウイルスベクターワクチンを使用する方法を理解するため長い道のりを歩んできました」
――過去5年または10年で開発された最も重要な研究は何ですか
「過去約50年前にさかのぼると、私たちは非常に効果的な一方で、しばしば厄介な副作用を引き起こすワクチンを使用していました。例えば天然痘ワクチンは人々に不快な跡を残し、場合によっては深刻な副作用を引き起こす恐れがあります。そのためワクチンの安全性を向上させることに大きな重点が置かれました」
「より安全なワクチンを開発すると、残念なことに以前よりも効果が低いワクチンができ上がりました。過去5年から10年の間、非常に安全であり、高いレベルの有効性も備えたワクチンの製造に注力してきました。ウイルスベクターワクチンはその両方を実現できます」
「妥協しなければならないのは、おそらく複数回の注射をしなければならないことのようですが、その代わり非常に安全で効果的なワクチンを入手しました。その技術を使用してさまざまな病気に対するワクチンをつくることができます」
「T細胞がどのように病気から私たちを守ることができるのか、ワクチン接種によってそれらを誘発する方法、そして彼らが働いているかどうかを測定する方法を理解することもはるかに上手になりました」(以上はオックスフォード大学のHPより)
――新型コロナウイルスに感染した後に再感染することはあり得ますか
「新型コロナウイルスに関しては確かなことは言えません。しかしヒトや動物に感染する他のコロナウイルスについて私たちが知っていることから免疫はそれほど長くは続かないことが分かります。一度感染しても将来的には再感染する可能性が高いと思います。どれほどの間隔か、何年かはまだ分かりません」
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