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zoom RSS 以前はお花畑がチベットの始まりだったが2

<<   作成日時 : 2018/03/06 22:57   >>

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以前はお花畑がチベットの始まりだったが1からの続き





「外国人は立ち入り禁止」の時も

 国道318号線を、四川盆地からチベット高原に入ると最初に通る都市が康定です。その市街地は、標高約1300mの渓流(長江の一大支流「大渡河」。野生生物の研究者ならば誰もが憧れる場所です)と4200m余の峠の中間、標高2700m付近にあります。

 筆者が康定を初めて訪れたのは29年前で、その頃はチベット民族が住民の大半を占める、良くも悪くも素朴な田舎町でした。それがいまや、大量の漢民族の移住者とともに巨大な都市へと変貌しつつあり、険しい山中まで新興住宅街として開発され、氷雪の峰々を背にビルが林立するありさまです。

 康定の次の町が雅江、その次が理塘、最後が巴塘。理塘は標高4000m超の高原都市、雅江と巴塘は南北に流れる大河に沿う町です。巴塘はチベット自治区との境界で、外国人はここから西に向かうことはできません。

 成都のユースホステルに滞在する外国人バックパッカーたちの多くは、このボーダーを突破することを目論んでいますが、成功例は、まず聞いたことがありません。成都からラサへどうしても行きたければ、高額な代金を支払ってパーミットを取得し、西安からの列車で北へ大回りして向かうか、飛行機を利用するしかありません。

 当局は、外国人旅行者が観光ルート以外の道のりを行き、周辺に住むチベット民族と個人的に接触することに対して、きわめて敏感になっているのです。もっとも、中国人にその話をすると「ラサも同じ中国なのだから、そんなわけないだろう? と、多くの人が不思議がりますが…。

 お金をかけて無理にチベット自治区に向かうくらいなら、比較的自由に行動できて、実質的にはチベット文化圏である四川省西部や雲南省北部をめぐるほうが、ずっと有意義だというのが筆者の考えです。

 また理塘や雅江では、しばしば暴動が起こります。その度に外国人はオフリミット(立ち入り禁止)になってしまいます。むろん、そのような事態になったときは、これらの街の方面に向かうバスの切符さえ売ってくれません。

 ちなみに5〜6年前までは、ノービザ滞在期限が切れた場合、香格里拉や康定の役場の窓口で、簡単に1ヵ月滞在延長の手続きが出来ました。大都市の場合は1週間前後かかる更新が、僅か数時間で可能だったのです(最近は厳しくなり、更新自体ほぼ不可能)。

 それでも一応滞在の理由をつけないといけません。チベット省境をうろつくことを匂わせたらダメ。外国人が観光ルート以外でチベット自治区に向かうことを、過剰なほど快く思っていないのです。


チベットの人々の本音

 筆者はチベット族の地元住民と何度も接触したことがありますが、彼らは「漢民族の前で本心を表すのはマズい」と十分に承知しています。

 彼らは中国人(漢人)旅行者には、表面上はまあまあフレンドリーに接しています。旅行者たちのほうも歓迎されていると思っているのですが、とんでもない。チベット族の人々は、相手が日本人だとわかると、それはもう堰を切ったように本音を吐き出すのです。どの人も異口同音に、漢民族に対する思いを吐露します(具体的に書くのは、少し憚られるほどの)。

 筆者が最初に理塘を訪れたときは、康定〜理塘の路線バスに乗り、途中の八角楼すぐ手前にある標高4600mの峠でバスを乗り捨て、パルナッシウス(ヨーロッパに生息するアポロチョウの仲間)などの高山蝶の撮影に取り組みました。

 午後3時頃、そろそろ撮影を終えて先に進もうと思ったのですが、甘かった。バスはなくなり、ヒッチハイクをしようにも、なかなか車が通りません。やっと一台のトラックに乗せてもらうことに成功しましたが、目的地は理塘まで残り10数キロの集落でした。

 地元のタクシー(と言えるかどうかも怪しい車)に乗り継いで、理塘に到着したのは真夜中の0時近く。外国人が泊まれるホテルは、もう閉まっています。ですが、1階の片隅から明かりが漏れていたので、意を決してドアを叩いてみました。

 すると、流暢な英語を話す、若く美しいチベット人女性が出てきました。

 このとき筆者は疲労に加えて、のろのろ運転のトラックの運転手や、ぼったくろうとしてきたタクシーの運転手に腹を立てて(夜間に得体の知れない日本人を乗せてくれただけで、本当は親切なのですが)いたものですから、本来なら遅くに着いた事情を説明したうえで「泊めてもらえますか? と言わねばならぬところ、いきなり「中国人は嫌いだ」と口走ってしまいました。

 しまった、と思ったのですが、彼女は笑いながら「私もよ!」と言い、快く泊めてくれました。

 後々わかったことですが、彼女の両親は地元の有力者で、当時20代半ばにしてホテル経営を任されていました。学生時代にイギリスに留学していたため、英語がとても上手なのです。

 筆者はそのあともたびたび理塘を訪れ、彼女には、地元で行われる伝統的な「鳥葬」を見学させてもらったり、周辺のドライブに連れて行ってもらったり、ずいぶんお世話になりました。4年前、わけあって筆者が康定の病院に入院したときは、見舞いにも来てくれました。それ以来会っていませんが、理塘や雅江近くでの暴動やテロが報道されるたびに、今でも心配になります。

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屋久島 世界遺産の自然 [青山潤三]


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失われた「天上の花畑」

 前述したように、初めて理塘を訪れたときは夜間で、雅江〜理塘間は、漆黒の闇の中を4〜5時間走り通しました。完全な漆黒の世界です。ごくたまに、車や家の灯りが、うっすらと亡霊のように浮かび上がります。

 この時、周りが見えなかったため、筆者は谷底を走っているものとばかり思っていました。しかし、後に同じ道を昼間に走ってみると、ほとんどが4500m前後の高原だったことが分かりました。

 今回山火事が起きたという「八角楼郷」は、雅江県の東端、康定寄りの標高4600mの峠の下方です。そのどん詰まりにある川の源流付近(標高約3800m前後)には、素晴らしいお花畑がありました。

 ある年には、雅江の町を拠点として、丸2日間そこへ撮影に通いました。その草原に生える200種近くの植物を、手あたり次第に撮ったことを覚えています。

 お花畑といっても、いわゆる高山植物の野生地ではなく、日本の田畑に生える雑草と同じ仲間の野生種が大半です。専門的な話になって恐縮ながら、日本の田畑の雑草は「2次的な植生」(もともとあった植生ではない)ですが、ここではそれが「天然に」成立している点が貴重でした。

 しかし残念なことに、その翌年に再訪したところ、草原自体が無くなってしまっていました。新しい山岳ハイウェイの建設が始まっていたのです。

 最後にこの場所へ足を運んだのは今から4年前ですが、その時にはもう、どこにあったかわからないほど、川辺のお花畑は完璧に破壊されていました。

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黒塗りの高級車にヒッチハイク

 上海から中国ーネパール国境までを結ぶ国道318号線は、中国の主要道路のひとつで、成都や重慶から、ラサをはじめチベット方面に向かう路線バスも頻繁に走っています(外国人のバックパッカーたちにとっては、バスや包車に乗るだけで大変です)。

 この国道318号線は、東半分(上海〜重慶・成都)はおおむね長江沿い、西半分がチベット高原を走っていますが、おおむね北緯30度を通っています。北緯30度は、日本でいうと屋久島周辺です。屋久島は1960年代半ばから50年以上通い続けている、筆者にとっての日本でのメインフィールド。そして、同緯度の生物相を調べることは筆者のライフワークの一環でもあります。

 ということで、今から8年前、雅江の町から長江源流の大支流の一つ「雅砦江」に沿って、「屋久島の海岸に相当する北緯30度13分地点」を目指したことがあります。

 ここまで分け入ると、路線バスがほとんどなくなるので、ヒッチハイクに頼らざるを得ません。道中で見た光景には、かなり驚きました。チベット高原を東西に横切る鉄道の建設が始まっていたからです(僅か25qの間に、大規模な鉄道や高速道路の建設が4本も行われていた)。その後、2016年3月に開催された全人代で、これらの鉄道の建設が大々的に発表されました。

 このときは、奇妙な体験をしました。なんと黒塗りの高級車が、ヒッチハイクに応じてくれたのです。

 一目で政府の高級官僚とわかるスーツ姿の役人が、お供を連れて乗っています。おそらく鉄道建設現場の視察なのでしょう。見た目こそ威圧的ですが、いたって親切で、はじめのうちは一番偉い役人であろう男性と、世間話に興じていました。

 すると、突然その役人がこう訊ねてきたのです。

 「ところで、君はアメリカは好きかね?

  筆者は笑顔で「もちろん好きですよ!」と答えました。すると、高級官僚氏の表情が微妙に曇ったかと思うと、押し黙ってしまいました。

 しばらくして、再び彼が口を開くと、

 「君はアメリカが好きなのか? 

 と同じ質問をしてきます。

 「ええ、好きです……」

 明らかに不機嫌そうな表情をしています。ため息をつくと、再び彼はゆっくりこう言いました。

 「もう一度聞く。本当にアメリカが好きか? 

 ここまでくると、さすがに鈍感な筆者も不穏な空気に気づきます。しかし、今さらとってつけたように「嫌いだ」と言うのも(日本人の感覚かもしれませんが)ヘンです。

 そこで筆者は、「中国も好きだし、アメリカも好きですよ」と答えました。お付きの人たちが凍り付いています。

 そのまま車から放り出されるかと思ったのですが、部下たちが話題を変えてくれて、何とか目的地まで辿り着くことができました。しかしその後の車内は一切無言で、生きた心地がしませんでした。

 この質問が一体何を意味していたのか、筆者にははっきりとしたことは言えません。ただ、いまだにこれが、中国で体験した中で一番恐ろしかった出来事です。


チベット探索中、中国人官僚の高級車に乗せられた結果…

現代ビジネス 2月26日(月) 10時0分-国際総合


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終りまでお読み頂き、ありがとうございました
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